ダイエットの呪縛」から自分自身を解放するには? 摂食障害を克服した管理栄養士・三城円さんに聞く、コンプレックスとの向き合い方

INTERVIEW

5月6日は「国際ノーダイエットデー」。ダイエットへのプレッシャーを手放し、体型の多様性や自由について考える日として、摂食障害を経験したイギリスのフェミニスト、メアリー・エヴァンス・ヤングが1992年に始めたもの。

「ボディ・ポジティブ」という言葉が浸透しつつある今日、それでもまだ太っている人への偏見や痩せていたほうがいいといった固定観念が世間にははびこっている。管理栄養士として『ハーパーズ バザー』のさまざまな記事を監修し、過去に摂食障害の経験を持つ三城円さんに、自身の体験をもとに次世代に伝えたい容姿コンプレックスとの向き合い方を聞いた。

三城円:管理栄養士、一般社団法人 日本パーソナル管理栄養士協会代表理事、San-CuBic 代表。自身の摂食障害の経験を生かして、2011年よりパーソナル管理栄養士として活動。“食べるダイエット”を基本とし、ダイエット、摂食障害、アスリートなど、ひとりひとりの目的に沿った食事コンサルティングを行う。著書に『1週間で体が変わる 食べながらやせるすごい方法』(サンマーク出版)がある。

三城円さんのダイエットとの付き合いは中学の部活引退後から始まった。子どものころから水泳、中学では陸上と運動に打ち込んできたため、急激に運動量が減った途端、どんどん増えていく体重に焦りを感じていたという。

「あの当時はギャルブーム真っただ中。高校ではみんなが制服のスカートを短くして、ルーズソックスをはいて。そしてやっぱり学校で人気があるかわいい子は細いんですよね。でも私はもともとがっちりした体格だし、親が厳しかったのでそういったファッションもできなくて。高校に行けば勝手に彼氏ができるものだと思っていたのですが、そういうのも無縁だった。私が太っているからいけないんだ、と常にどこかで感じていました」

成長期ということもあり食べた分だけ太りやすく、運動をしたり食べすぎないようにするなど、ずっとダイエットを意識して生活。栄養士を目指して大学で勉強していた頃は、“これを食べたらこれだけ太る”と常に頭の中でカロリーを計算する日々を過ごした。

「摂食障害を疑ったのは大学院生だった24歳の時。プライベートでショッキングな出来事があって、完全にストレスを抱えていました。最初のうちは鬱っぽく、不眠に悩んでいたのですが、ごはんを大量に食べたあとに吐くといった過食症の症状も出てきたので、これはおかしいと思ってすぐに病院で診てもらいました」

家族やまわりに気づかれる前に早いうちに治したいと思っていたが、そこから10年ほど過食症、拒食症を含む摂食障害と闘うことに。

「拒食症の時は体重は38キロほどで体脂肪率は5%台。それでも拒食症の特徴として“認知のゆがみ”というものがあるので、自分が太っているように見えて、『もっと痩せなきゃ』と思っていましたね。体重がある程度標準に戻っても、精神面で不安なことがあると、頻度は減りながらも食べては吐くといった症状が出ていました。今は長い間安定していますが、念のためクリニックには通っています」

拒食症の時に何を食べたか、カロリーをどれくらい摂取したかを記録していたノート。何をどれくらい食べたか把握していないと気が済まなかったという。

現在、国内外アイドルの大ブームやSNSでのインフルエンサーマーケティングなどによって、それらをフォローする若い世代はすらりとしたスタイルだけを“正しい体型”として認識しかねない。彼女たちのようになりたいと無茶なダイエットを試すなど、体に悪影響を及ぼす可能性も十分に考えられる。実際、アイドルが実践する過酷なダイエットや事務所による厳しい体重管理は問題視されているのが現状だ。まわりに流されずに容姿コンプレックスと向き合うには、物事を俯瞰的に捉えることが重要になると三城さんは言う。


自分がどういう人生を手に入れられたら幸せだと感じることができるのか、広い視野で一度考えてほしいですね

「痩せたければダイエットしてもいいと思いますが、まず自分がどういう人生を手に入れられたら幸せだと感じることができるのか、広い視野で一度考えてほしいですね。そのためには痩せていなきゃいけないのか、普通体型でもぽっちゃりしていてもいいのか。太る=悪いイメージですが、健康問題に直結する肥満などでなければ、そこまで痩せている必要なんてないはず。

それに、体型以外の別の部分を磨いておくことも大切です。私が摂食障害から立ち直ることができた理由のひとつは、仕事でこういうことがしたいという具体的な目標があったから。コンプレックス解消のためにすべての情熱を注ぐのではなく、仕事なのか趣味なのか、自分の軸となる生き方をきちんと考えておくというのは大事だと思います」

また、今はSNSやインターネットなどですぐに情報が得られる時代。その反面、常に間違った情報を鵜吞みにしてしまうリスクにさらされている。三城さんも入ってくる情報を若い世代がそのまま信じてしまうことはとても危険だと感じているという。

「昔と違って情報源が多く、その分情報量も多くなります。インスタグラムやYouTubeはどんな人でも発信できるツール。間違ったことを堂々と発言している人がたくさんいます。特に食事やダイエットにまつわることは、基礎知識がなくても個人の見解で何でも言い切ってしまうので、それを見る若者たちは本当に気を付けてほしいです。情報を受け取る側も情報選択力を養うことが重要ですね」

ほかの誰かのためでなく、自分のために生きる人生。他人と比べず、自分だけの幸せの価値観を改めて考えることが、容姿コンプレックスをポジティブに受け入れる鍵となりそうだ。

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